狼くん、ふれるなキケン!
「……そっか」
狼くんがそっと相槌をうった。
そっけない、けれど、『あっそ』よりは少し柔らかい響きがする。
腕の傷口をガーゼで優しく覆って、そっと撫でる。はやくよくなりますように、と願いをこめた。
「いたいのいたいのとんでけーっ」
「ガキ扱いすんな」
「子ども扱いじゃないですよ、狼くんだからです!」
すると、ふいをうたれたように、狼くんが目を見開いた。
瞳がぐらっと大きく揺れて。
「……っ」
次の瞬間、表情を歪める。
くしゃりと葛藤をにぎりつぶすような、そんな。
「狼くん……?」
「……あのさ」
狼くんの耳が心なしかほんのり赤くそまっている。
「ひなは、俺のこと────」
熱にうかされたように、そこまで口にして。
だけど、その先が紡がれることはなかった。
今、狼くんはなにを言いかけて止まったの。
「やっぱ、なんでもない」 のその先にある言葉が、ほんとうは知りたい。
手当てが終わって、狼くんはそそくさとその場を後にしようとする。ぼんやりとその姿を見つめていたのだけれど。
「あ、待って、狼くん」
「なに」
「口の端も、ケガしてますね?」