狼くん、ふれるなキケン!
「とにかくっ、消毒しなきゃです」
「だから、いいって」
「む、だめですよ! 傷口からバイ菌がはいるんですっ」
ここはゆずれない。
消毒液をしみこませたコットンを手に、指先で狼くんのくちびるにふれようとすると。
「触んな」
「えっ」
「自分でやればいいんだろ」
ぱしっ、と指先が弾かれた。
えええ……。
さっきまでは従順でいてくれていたのに、もうこの調子になっちゃうんですか。
切り替えがはやすぎる。
「優しい狼くんに戻ってください……!」
「はー……、俺のどこがそんな優しく見えた?」
「狼くんは優しいですもん、知ってます」
「ほんと、何様だよ」
最終的に白けた目を向けられた。
結局、そのあとは私に手を貸す機会も与えてくれなくて、狼くんはセルフで口元の怪我の応急処置を終えてしまう。
「狼くん、ごはんにしますか? もういい時間なので」
「……」
「作っておいたんです、簡単なものですけど……」
あたためるだけのコーンスープと、切るだけのサラダ。食卓に置きざりのそれらを思い浮かべて口にする。
狼くんは何も言わないまま、立ち上がってすたすた歩いていく。行き先は食卓のほう。
どうやら食べてくれるみたい……と思っていると狼くんがふと足をとめた。
すぐ後ろを歩いていた私は、きゅうには止まれなくて、こつん、と狼くんの背中におでこをぶつけてしまう。