狼くん、ふれるなキケン!
「……ごめん」
ぶつけた額をさすっていると、狼くんはぽつりとそう言った。
一瞬、今おでこをぶつけたことに対してなのかと思ったけれど、ちがったらしい。
「今日、俺が家事の日だったのに。……それと、帰り遅くなって、悪かった」
「やっ、そんなの気にしないでいいですっ」
「それから」
狼くんが振り向く。
向かい合わせ。
「ありがと」
何に対して……なのかは明かされることはなかった。
手当てのこと? ごはんのこと?
わからないけれど、狼くんの目が、ちゃんと優しかったから。
思わず目を細めてわらうと。
「……!」
狼くんの私のよりひとまわりもふたまわりも大きなてのひらが、ぽん、と頭の上に乗る。
そのまま、とんとん、とゆったりリズムを数回刻んでから、髪の毛をするっとすいて、離れていく。
頭をなでられた、と気づいたのは少ししてからだった。
ねぎらうようなそれは、くすぐったくて嬉しくて。
────離れていく体温が、名残惜しくてくるしくなった。