狼くん、ふれるなキケン!
今のって……。
「な、なんで今……」
キス、したの?
直接的なカタカナ2文字は、恥ずかしくて言葉にできなかった。
頭がのぼせそう、何もわからない、だけどほっぺたが熱い。まだ春なのに、服がジャマなくらい暑い。
キス。
唇と唇を重ねる行為のことをそう呼ぶのなら、今のはキスで間違いない、けれど。
私が知っている “キス” はこんなのじゃない。
たとえば、おとぎ話で永遠の眠りについたお姫さまは王子さまの真実の愛のキスで目を覚ます。
たとえば、少女マンガでは紆余曲折の末に結ばれたヒロインとヒーローが涙を滲ませながらそっと唇を重ねる。
たとえば、月9ドラマでは海外へ行ってしまうヒーローと空港まで追いかけてきたヒロインが、別れを惜しむように、愛を誓うように────。
ともかく、キスってそういうもの。
お互いを大好きだって思っていて、はじめて成立するもの、でしょ……?
じゃあ、今のは、なに?
「ねえ、狼くん、今……」
どうしてキスなんて。
その疑問が声になることはなかった。