狼くん、ふれるなキケン!
遮るように、狼くんの鋭い眼光が私を射抜いたから。
ぜんぜん違う。私と、狼くん。
私はまだ頭がぐるぐるしてて、どこかしこも真っ赤に染まっていて、心臓だってドコドコうるさいのに。
狼くんはあまりに冷静だ。
まるで何もなかったみたい。涼しげで、ううん、むしろ冷たい。温度のない瞳を刃のように私に突きつける。
キスなんて幻だったのかも、なんて錯覚しそうになるくらいの温度差にひゅう、と喉が凍った瞬間、追いうちをかけるみたいに狼くんは吐き捨てたの。
「近寄ってくんな、目障り」
「……!?」
鬱陶しげに落ちてきた台詞。
そのあまりの冷たさに息を呑んだ。
めざわり、目障り……って、どういう意味、だっけ。
頭、まっしろ。まっしろになって、もう一回1から考え直して、それで出た結論は。
「っ、最低……っ!」
ぱちん、と乾いた音が部屋に響く。
考えるより先に体が動いていた。
手のひらに走った痛みと、それから少し赤くなった狼くんの頬。それで、自分が何をしたのか理解した。
平手打ちされてまでも、狼くんは飄々とした表情を崩さない。
依然としてその瞳には冷たい色をたたえたままで、それが、なんだか無性にくやしかった。