狼くん、ふれるなキケン!


「あ、あの、狼くん」

「なんだよ」



脱衣所に入ったはいいものの……。

あることに気づいて、ひょっこり扉から頭を出す。




「私、着替えが……なくて」

「着替え?」

「ぜんぶまとめて洗濯に出しちゃってて、雨でかわいてなくて……っ。なので、何かその……着るものを」




貸してください、って言う前にぽんぽん飛んできた。


投げよこしてくれたのは、狼くんがいつも着ているTシャツと、部屋着のズボン。





「あ、ありがとうございますっ」

「嗅ぐなよ」

「ひぇっ、見ないでください……っ!」

「見てねーし」




見てないのにバレてしまったの?

エスパー……というか、行動が完全に読まれている。



すん、と吸った空気は、柔軟剤にまじってたしかに狼くんの匂いがする。私のも同じ洗剤で洗っているはずなのに、やっぱりちがう、不思議。



借りた狼くんの服はとりあえず畳んで脱衣所へ置いておく。

それから、雨に濡れた制服を脱ぎ落として。




「それじゃあ、お先にお風呂失礼しますねっ」

「……はいはい」




閉ざした扉の向こうから、狼くんの呆れた返事が聞こえてきた。




< 252 / 352 >

この作品をシェア

pagetop