狼くん、ふれるなキケン!


ひなが何をしても、何を言っても、どんな表情をみせても、ぜんぶかわいいとしか思えない。かわいくて困る。


錯覚しそうになるんだよ。




『もうちょっと……そばにいてほしい、の』



あんなこと言って、抱きついてきたりされたら。



『狼くんになら何されてもいいですもん……っ』




勘違いするんだよ、ふつう。




『食べさせて、ほし……』

『他の子に優しくしちゃ、や……っ』

『狼くんが、ぎゅってしてくれたら、寝るの……っ』




無意識の癖なんだと思う。


幼い頃、テレビのなかのおとなに憧れて真似しているうちに、ひなの喋り口調はたどたどしい敬語で定着した。

それが、甘えるときにだけ、ほろっと突然はずれる。




舌ったらずの甘い声で、そうやって甘えるようなことを言われたら、ばかみたいに期待して浮ついてしまう。




────ひながこうやって、弱いところをみせるのは、甘えるのは、俺にだけなのかもしれないって。これは、俺だけが見れる顔なんだって。



独りよがりな優越感に浸ってしまう。





< 273 / 352 >

この作品をシェア

pagetop