狼くん、ふれるなキケン!
ひなが何をしても、何を言っても、どんな表情をみせても、ぜんぶかわいいとしか思えない。かわいくて困る。
錯覚しそうになるんだよ。
『もうちょっと……そばにいてほしい、の』
あんなこと言って、抱きついてきたりされたら。
『狼くんになら何されてもいいですもん……っ』
勘違いするんだよ、ふつう。
『食べさせて、ほし……』
『他の子に優しくしちゃ、や……っ』
『狼くんが、ぎゅってしてくれたら、寝るの……っ』
無意識の癖なんだと思う。
幼い頃、テレビのなかのおとなに憧れて真似しているうちに、ひなの喋り口調はたどたどしい敬語で定着した。
それが、甘えるときにだけ、ほろっと突然はずれる。
舌ったらずの甘い声で、そうやって甘えるようなことを言われたら、ばかみたいに期待して浮ついてしまう。
────ひながこうやって、弱いところをみせるのは、甘えるのは、俺にだけなのかもしれないって。これは、俺だけが見れる顔なんだって。
独りよがりな優越感に浸ってしまう。