狼くん、ふれるなキケン!
「……」
ひなの手のひらを握る手に、柔く力をこめた。
もう片方の手で、熱にうなされるひなの頭をあやすように撫でる。
せめて、間違えたくない。
暴走して、傷つけるようなことだけは、ぜったい。
「…………ろう、くん」
ひなの口から漏れた声に、ぴくり、と思わず反応してしまう。
寝言か。
ああ、ぜんぶ消してしまえたらいいのに。
こうやって名前を呼ばれるたびに生まれる、優越感も、劣情も、苦しいまでの恋情も、なかったほうがきっと優しくできる。
「……ひな」
自分の発した声に自分でおどろいた。
かゆくなるくらい甘ったるい声、きっとひなにしか見せることのない部分、どんなにやめたくなってももう後戻りなんてできないんだと雄弁に語っている。
詰まった息をはー……、と吐き出したそのとき。
「……電話?」
プルルルル、と着信音。
その出どころは、俺のスマホだった。
3コール目くらい、名前を確認することなく、電話に出る。スマホを耳にあてると。
〈 あ、狼? 元気ー? 〉
「……いきなり、なに?」
〈 狼、俺明日そっち戻るから 〉
「は?」
〈 んじゃ、それだけ。また明日な 〉
プツンと切れた電話に思わずスマホを凝視する。
マイペースすぎるだろ。
自分とは似ても似つかない、同じように育ったはずなのにどうしてこうも違うのか。
────突如訪れた波乱の予感に、またひとつため息をこぼした。