狼くん、ふれるなキケン!
ばっちり目が合ったということは、やっぱり視線の正体は彼だったみたい。
「……?」
なにか用でも……? ときょとんと首を傾げても、その男の子は何も言わずににこっと微笑むだけ。
その仕草にますます、頭の中ではてながむくむくと湧き上がる。
どうしよう、心当たりがないよ。
そのまま目が合ったままなのも気まずくて、逃げるように視線を黒板の方へ戻したところで。
「そうだ、誰かこのあと近原さんに校舎をざっと案内してやってくれ」
先生がそんなことを言う。
私としては、嬉しい提案だった。
だって、まだこの学校のことを全然知らないし、誰かに案内してもらえたら助かるな……って思ってたもん。
そして、そんな私とはぜんぜんちがう理由でクラスメイトの皆もまた盛り上がっていた。
「オレオレ!俺がいく!」
「や、ここは女子のほうがいいっしょ、うちらが行くよ」
「いやいや、そこは」
えー……っと、これは。
どうやら、いちはやく転校生とお近付きになれるポジションこと、案内役をめぐって争いが繰り広げられているみたい。
おそるべし、転校生マジック。