狼くん、ふれるなキケン!


魅惑の響きに誘われるように、よくわからないままこくりと頷いた。



「じゃ、交渉成立ってことで」

「交渉、だったんですかっ?」

「その代わり、冷蔵庫に入れてあるお土産、ひなは自由に食べていーよってことで」




おみやげと引き換えなの。

訳がわからない……けれど、純粋にアメリカのおみやげは気になっちゃう。




「ともかく、ひな、頑張って」

「頑張るって、何を……っ」


「そのままでいいんだよ、そのまま、狼と一緒にいてやって。たぶん、あいつ、そのうちひなのこと多少傷つけると思うけど」

「なっ」




いくら桜くんだからって、狼くんをそんな風に言うのはみとめられない、と反論しようとしたけれど、すぐさま桜くんに封じこめられる。




「でも、それは本心じゃないって俺が断言する」




じっと私を見つめる桜くんの、深いブラウンの瞳が、思いのほか真剣味を帯びていたから。




「どうして、私にそんなこと、言うんですか」

「ひなにしか託せないからな。それと、たまには不憫な弟の背中を押してやるのも兄貴の役目かなって」




思っただけ、と桜くんが口角を上げたタイミング。

ふたたび狼くんが顔をのぞかせた。




「ごはん、できたんだけど」

「わっ、食べます……!」

「狼の手料理か、なんか照れるな」

「……うざい」




狼くんと桜くんと、それから私。
3人で囲む食卓は、新鮮でにぎやかで。



それから、もうすっかり慣れていたことに気づかされたの。




狼くんとふたりの食卓。
狼くんのつくる料理の味。




いつのまにか、私の一部になっていたんだなって、そう思った。





< 289 / 352 >

この作品をシェア

pagetop