狼くん、ふれるなキケン!
魅惑の響きに誘われるように、よくわからないままこくりと頷いた。
「じゃ、交渉成立ってことで」
「交渉、だったんですかっ?」
「その代わり、冷蔵庫に入れてあるお土産、ひなは自由に食べていーよってことで」
おみやげと引き換えなの。
訳がわからない……けれど、純粋にアメリカのおみやげは気になっちゃう。
「ともかく、ひな、頑張って」
「頑張るって、何を……っ」
「そのままでいいんだよ、そのまま、狼と一緒にいてやって。たぶん、あいつ、そのうちひなのこと多少傷つけると思うけど」
「なっ」
いくら桜くんだからって、狼くんをそんな風に言うのはみとめられない、と反論しようとしたけれど、すぐさま桜くんに封じこめられる。
「でも、それは本心じゃないって俺が断言する」
じっと私を見つめる桜くんの、深いブラウンの瞳が、思いのほか真剣味を帯びていたから。
「どうして、私にそんなこと、言うんですか」
「ひなにしか託せないからな。それと、たまには不憫な弟の背中を押してやるのも兄貴の役目かなって」
思っただけ、と桜くんが口角を上げたタイミング。
ふたたび狼くんが顔をのぞかせた。
「ごはん、できたんだけど」
「わっ、食べます……!」
「狼の手料理か、なんか照れるな」
「……うざい」
狼くんと桜くんと、それから私。
3人で囲む食卓は、新鮮でにぎやかで。
それから、もうすっかり慣れていたことに気づかされたの。
狼くんとふたりの食卓。
狼くんのつくる料理の味。
いつのまにか、私の一部になっていたんだなって、そう思った。