狼くん、ふれるなキケン!


「あ、これ……」



ふと目についた缶。

日本ではまず見ない、大きなサイズの缶、表面にはさくらんぼのイラストがプリントされている。



海外っぽいポップなデザインに、おそらく成分表示……のところには、びっしりとアルファベットが。




これ、桜くんだよね、きっと。

冷蔵庫におみやけが……的なことを言っていたような気がするから、これもそのうちのひとつなんだと思う。



英語はニガテ。

だから、なんと書いてあるかはぜんぜん理解できないけれど、このパッケージの感じ、さくらんぼのジュース、でまちがいないはず。




『じゃ、交渉成立ってことで』




桜くん、おみやげは好きにしていいって言ってくれたし……と、誘われるままに、缶ジュースに手を伸ばす。



のど、かわいたし。

それに、すっごく、美味しそうだもの。




「いただきますっ」




プシュッとプルタブを開けて、コップに注ぐ。

トポトポと注がれていく液体は、濃いピンク色。強めのさくらんぼの香りがふわっと漂ってくる。



ぱちぱちと微かに音をたてて発泡するそれを、おそるおそる、そっと口につけてみた。




「……!」





おいしい、すごく……っ。



外国のお菓子みたいな、華やかな味。

鼻を抜ける香りはフルーティーで、それからその奥に……何だろう、少し大人っぽい感じがする。




ちょっと背伸びをしたような、その風味にすっかりトリコになってしまって。




かわいたのどを潤すのと、美味しいのとで、ごくごく飲みすすめてしまった。





────いっさい、何も疑わずに。






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