狼くん、ふれるなキケン!


見覚えも、心あたりもある。

さくらんぼがプリントされたかわいい缶。




「とっても……、おいしかった、よ?」




そう言うと、狼くんが盛大にため息をつく音が聞こえてきた。

鬱陶しげなその吐息の音が、ちくりと胸をさす。




「っ、狼くんっ」

「なに」

「ごめんなさい……っ」



思考回路がゆるむついでに、涙腺までゆるんでしまったみたい。

じわじわと瞳がうるんでくる。



完全に情緒不安定。

目に涙を溜めながら謝ると、狼くんは困ったように目を細めた。




「何に対してのごめん?」

「……その、飲んじゃだめだったかなって……」




うまく頭が回らない。


だけど、私がジュースを飲んだことで狼くんの機嫌を損ねたのはほんとうのはず。




「飲んだらだめっていうか……、まだわかんないの」

「……?」

「これ、酒」




さけ……、お酒?

いやいや、いくらなんでもそんなはず。




「さくらんぼの、ジュース……」

「さくらんぼのお酒」





すぐさま訂正される。




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