狼くん、ふれるなキケン!
「狼くん、ですよねっ? 藤川狼くん!」
「……」
無視!?
まるで虫けらでも見るような視線を向けられて、うっ、と思わずひるむ。
……けれど、否定しないってことは狼くんで間違いないはず。
藤川 狼くん。
幼なじみなの。
幼い頃────昔、この街に住んでいた頃、よく一緒に遊んでくれた。
パパの仕事の都合で、10年前に離れたところへ引っ越してからは疎遠になっていたけれど、それまではほんとうに仲がよかったんだよ。
毎日のようにお互いの家を行き来したりして。
幼い頃から狼くんはコワモテだったけれど、コワいのは顔立ちだけ。実はすっごく優しくて、いつもおままごとや人形あそびばかりしたがる私にもいやがらずに付き合ってくれていたんだよね。
優しくて、困ったことがあったらいつも助けてくれて。
そんな狼くんが大好きだったから、離れていたって狼くんのことを忘れることはなかったし、いつかまた会いたいって思っていたの。
なのに、狼くんってば、まさか私のこと────。
と、そこでひとつの可能性に思いあたる。
そっか! 私まだ名乗っていない。
10年も経てば見た目もずいぶん変わるもの、狼くんは、きっとまだ私が誰だかわかっていないんだ。