狼くん、ふれるなキケン!


狼くんはすぐに私を解放しようとする。
だから、あわてた勢いで引きとめてしまった。

皺になるくらい、ぎゅっと強く狼くんのシャツを掴んで。




「っ、おい」

「……っ、まだ離れたくない、の」




離れたくないより、離したくないの方が正しい。

一方的に引きとめて、欲しがっているのは私の方だけだから。


それでも。




「狼くんとくっついていたいの……っ」




だだをこねるみたいに、頬を狼くんの胸にすり寄せると、狼くんがぐっと険しい顔つきに変わる。




「この酔っぱらい」




狼くんはそう言うけれど。
それだけじゃないもん。


たしかにお酒の力を借りているのかもしれない、けれど、あることないことを口走っているわけじゃない。


全部ほんものなのは、私がいちばんよく知っている。




「狼くんの体、気持ちいい、から……、それに、声も落ちつくの……」




言い訳を並べるみたいに口からこぼれおちていく。

全部が言い訳ってわけでもなくて、落ちつくのも事実だった。



狼くんの体温に包まれながら、ふわふわ浮上する意識。

徐々に眠たさに変わっていって、うとうとしていると。




「もう十分だろ」

「え……っ」




突然、狼くんが体を離す。

何か発作でも起こしたかのように、ぐるんっと急回転で背中を向けてしまった。




その直前、ちらりと見えた狼くんの頬はりんごみたく熟れていた……ような。

気のせいかな。




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