狼くん、ふれるなキケン!


どうしてかな。


いつもそうなの、狼くんがいるといつも自然と目がいくの。引き寄せられるように、いつでもその姿を見つけてしまう。


それは、私がいつも、ずっと、狼くんを無意識に探して求めているからなのかもしれない。




────今だって、そう。

渡り廊下、まやくんのうしろにちらりと見えた影。


それだけで、私にとってはまちがえるはずもない、狼くんで。




「……!」




狼くんの切れ長の瞳がまっすぐこちらを向いた────ような。


気のせいじゃない、ちゃんと、目が合ったはず。私のこと、さすがの狼くんだって気づいたはず。



────なのに。




「……っ」




ふい、と狼くんが目を逸らした。

まるで何もなかったかのように。
私の存在をなかったことにするように。


それで、そのまま立ち去ろうとするから。




「っ、待って、狼くん……っ!」




必死だった。

まやくんの存在も一瞬にして忘れて、その背中を追いかける。




「待ってくださ……っ」




追いかけて、つかまえなきゃって。

ちゃんと、話がしたいよ。



私を見てほしい。
あわよくば、私だけを、見てほしいの。



だけど、容赦のない狼くんの足取りに追いつくことはかなわなくて。背中に伸ばした腕も、声も、届かなかった。




見えなくなった背中に切なくなる。



振り向いて、狼くん、こっちを向いて。




────私は、こんなにも。


こんなにも狼くんでいっぱいいっぱいなんだって、狼くんに、知ってほしい。





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