狼くん、ふれるなキケン!


「……っ!」



みるみる血の気がひいていくのがわかる。



今、狼くん、なんて言ったの。
ビッチって、誰が。……私、が?




くらくらする、どん底に突き落とされたような心地がした。

頭がまっしろになって、何も考えられない。


そのなかで、衝動的に湧き上がってきたのは。





「────最ッ低っ!!」




パンッと乾いた音が響いて、直後右の手のひらがじんと痺れる。


頭より先に体が動いていた。

激しい怒りにまかせて狼くんの頬を思いっきりぶったのだと気づいたのは、あとから。




でも。

ゆるせなかった、いくら狼くんでも。




「っ、狼くんのわからずや! 私の……っ、ひなの気持ちを勝手に決めつけないでくださいっ!!」




なにも、なんにも、わかってない。

ひとつ屋根の下、こんなに近くにいるはずなのに、ひとつも伝わっていなかった。



くやしくて、くるしくて、やるせない。



ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて、フローリングに染みていく。



……ビッチ、なんて、あんまりだ。





「ずっと……っ!ずっと狼くん一筋なの!ずっと狼くんが、狼くんだけが好きなのにひどいよ……っ」




これ以上は耐えられない。

このままここにいても、狼くんに八つ当たりしてしまうだけ。



────余計に嫌われてしまうだけ。





「っ、実家に帰らせていただきます……っ!!」





くるりと背中を向ける。

行くあてもないまま、狼くんから逃げるように外へ飛び出した。





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