狼くん、ふれるなキケン!
※オオカミの遠吠え
- side 狼 -
◆
バタン、と勢いよく扉が閉まる音を背中に聞いた。
呆然と立ち尽くす。
ひなの気配がなくなって、ようやく冷静さが戻ってきた。
ずるずるとその場に座りこむ。
今さら、ひなに平手打ちされたところがじんじんと熱を持ちはじめた。
「……痛え」
赤くなっているであろう箇所を手で覆う。
全力で叩いたんだろう、けっこう本気で痛い。
あの小柄な体のどこからそんな力が出んだよ。馬鹿力だろ。
────ひなにこうして平手打ちされるのは、二度目だ。
『っ、最低……っ!』
1回目はひながここに戻ってきた日。
無遠慮に踏みこんで、近づいてこようとするひなに振り回される感覚がこわくて、それからふつうに、魔がさして。
うるさく俺の名前を呼ぶその口をキスでふさいだ。
……ひなは、本気で、俺があんなこと誰にでもできると思っているのだろうか。
だとしたら、大ばかだ。するわけないだろ。
じっさい、いつだって俺の方が驚いている。
ひなといると余裕なんてない、素直な心の内を見せるわけにもいかない。遠ざけるしかなくて、いつも気づけば冷たく当たってしまっている。
当たり散らすように酷いことをしてしまうこともある。それに気づくのはいつも、事が終わってからだ。