狼くん、ふれるなキケン!
「好き」なんて、そんなもんじゃない。
深くてどろどろしてて、底なし沼。
知らないくせに簡単に言うな、むなしくなるんだよ、本気で好きだと思う相手にあんな風に言われたら。
どれだけ我慢してると思ってんの。
「好き」なんて俺の方がずっと思ってる。ひなが簡単に言ってのけたそれを、こっちはいつだって必死に押さえつけている。
そうまでして言わないのは。
言わないのも、ふれないのも、ぜんぶ。
────ひなのため。
ひなが、“俺のことをきらい” だと知っているからだ。
頭のなかで、もう何度再生したかわからないテープが回りだす。
重苦しく、忘れることもできないまま、こびりついた記憶。
それは、ひなが、10年前、ここから引っ越していった日の朝の話。