狼くん、ふれるなキケン!
ほんとうに、忘れてしまえたらよかったのに。
なのに、じっさいはその逆だ。
あのときからずっと、俺はひなに囚われ続けている。
彼女にもしも、もう一度会うことができたなら、今度こそは────“嫌われたくない”。
泣き虫で弱虫で女々しいところがだめなんだって、桜くんがそう言っていたから、そうじゃない自分になろうとした。
意識的に変えたんだよ、“ひぃちゃん” という呼び方を変えたのもこのときだ。“ひな” と桜くんの真似をした、こっちの方が大人っぽいと思ったから。
もう二度と会えない彼女に振り回され続けて、10年経って、ようやくつけられた傷がふさがりかけたとき、彼女は突然帰ってきた。
それで、またぐちゃぐちゃだ。
結局また振り回されて、傷つけられて────、それも全部一方的だったはずなのに。
『っ、狼くんのわからずや! 私の……っ、ひなの気持ちを勝手に決めつけないでくださいっ!!』
ひなの、あんな悲痛な声、はじめて聞いた。
聞いているだけで、きりきりするような声。
あんなに傷ついた顔を見たのもはじめてだった。
ほとんど絶望、あの表情は、かつての────ひなが引っ越していった日の俺自身のそれと重なる。
『勝手に決めつけないで』
俺は、ひなの気持ちを決めつけてなんて────でも、もし、それがほんとうなら。