狼くん、ふれるなキケン!



『ずっと……っ!ずっと狼くん一筋なの!ずっと狼くんが、狼くんだけが好きなのにひどいよ……っ』



もしも、ひなの言う “好き” が自分がひなに向けるそれと同じなら……なんて、それはないか。



でも、そういえば。


ひなの口から “きらい” だって面と向かって言われたことって、あったっけ。

……軽口でならあるけれど、ちゃんと言われたことってなかったかもしれない。




期待するだけ無駄だ。

どうせぶち壊されて絶望するだけ、そうわかっているけれど、ふいに脳裏をよぎるのは、目に涙をいっぱいに溜めて声をふるわせるひなの姿。




……っ、つーか、今、ひなどこにいんの。




ふと我に返る。



泣き腫らしたまま家を飛び出していったひな。今は外……? もう夕暮れどきを過ぎている、夜と言ってもいい。こんな時間に、外をうろついていて────いいわけがない。



何かあったら取り返しがつかない。

想像して喉がひゅっとなる。




「……っ」





慌てて電話をかける。

はじめてだった、非常時用に連絡先を交換したっきり、使うタイミングもなかったから。



1コール、2コール、3コール……出ない。

もう一度かけ直しても、そのあと何回かけ直しても出ない。




非常用じゃねーのかよ、何の役にも立たない。

まったく繋がらない電話に次第に焦りがうまれてくる。






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