狼くん、ふれるなキケン!
咄嗟に出てくる言葉がなかった。
黙り込んだのは、図星だったからかもしれない。
〈 ま、お前が来ないならおれがひなちゃんのこと食べちゃうけど。ごめんねー? 〉
「……おい」
〈 これは結構ホンキだから、よろしく 〉
ぷつり、通話が途切れる。
向こうが切ったのが先か、こっちが先だったのか。
ただ、気づけば家を飛び出していた。
向かう先なんて────ひとつしかない。
「……っ、最悪」
最悪なことばっかなんだよ、ずっと。
八つ当たりでもなんでもなく、これは本気でいつもそう思っている。
最悪、ありえない、まじで無理。
────なんで他の男のところにいるんだよ。なんで……なんで、ひなは俺だけのものにならねえの。
限界。ひながほかの誰かのものになるとか考えただけで、けっこう本気で死にたくなる。
「────あー……」
……もういい。
もう、全部どうでもいい。
ひなが俺のこと好きとかきらいとか、どう思ってるとか、ほかの男とどうだとか、もう知らない。
結局、俺はどんなひなでも好きで仕方なくて、そうなってしまった時点で俺の負けだ。どう足掻いたってどうせこの恋情からは逃げられない。────だったら。
もう、我慢とかできない、しない。
ほかの男にみすみす渡すくらいなら、散々困ればいい。困らせたくないとか、傷つけたくないとか、嫌われたくないとか、もうやめる。
俺がどんな目で、どんな気持ちでずっとひなのことを見てきたか。その細い手首をつかまえて、全部ぶちまけたら。
『受け止められんの? 俺のぜんぶ』
ひなは、どんな顔をするだろうか。