狼くん、ふれるなキケン!
「あの、私、近原ひなですっ」
「……」
「狼くんと幼なじみで、ええと、昔この向かいの家に住んでいて! ……覚えて、ませんか?」
身ぶり手ぶり、あたふたと。
必死の形相でうったえる私を、狼くんは冷めた目で見下ろしている。その切れ長の目は幼い頃と同じだ、けれど。
あのときは、もっとこう……なんていうか、優しげな色をしていた、というか。あったかかった、というか。
ともかく、視線を向けられただけで背筋が凍るような、こんな気持ちになったことはなかった。
返事をくれない狼くんに、めげずにもう一度。
「あの、覚えてませんか、私のこと」
「……まったく」
「えっ」
「お前、誰?」
「っ!?」
びっくりした。
理由はふたつ。
ひとつ、狼くんが私のことを覚えていないと言ったこと。
ふたつ────
「用が済んだら、消えてくんない? そこ、俺の家」
「……!?」
知らない知らない。
いや、知っている、目の前のこのひとは、昔仲良かった幼なじみの狼くん。
だけど、こんな狼くん知らない!