狼くん、ふれるなキケン!
『……』
結局それ以上は会話のひとつもなく。
ぴくりとも動かない狼くんの表情を、やるせない気持ちで見つめていたことをよく覚えている。
あれから、今日こうして新学期を迎えるまで、二週間くらいあったけれど、まともに話せたことはまだ一回もない。
ため息のひとつやふたつ、つきたくなる。
狼くんはとくべつ、って思っていたのは私だけなのかな。
きっと、私だけなんだよね。
だから狼くんはあんなにそっけなくて……。
狼くんと私、最初から仲良くなんてなかったのかもしれない。
そう思ってたのも私だけなんだ、ぜったい。
そうやってだんだんと現実を思い知らされつつあるのに、それでも狼くんの言いつけをきちんと守って、だれにも狼くんの家に居候させてもらっていることは言わないでおこう、あまり狼くんの話をしないでおこうって頑張っているなんて。
狼くんは知らないだろうな。
「おーい、ひなちゃん、聞こえてるー?」
またたく間に狼くんで頭がいっぱいになって、うんうんと考え込んでいた私の耳に、まやくんの声が飛びこんでくる。