狼くん、ふれるなキケン!
きっぱりと断言できないのは、まだ恋と呼べるような恋をしたことがないから。
誰かのことを好きになるって、じっさいどんな気持ちなんだろう。
「じゃー、おれにもまだチャンスはあるってことだ」
「……はい?」
「狙っちゃおーかな、ひなちゃんのこと」
どこから出してるのか気になるくらいのピンク色の声でそんなことを言ってくる。
……もう!
「冗談も大概にしてくださいっ」
「本気のほうがよかった?」
「そんなことひとこともっ」
油断もスキもない。
たった数秒の掛け合いのあいだに、まやくんはまたじりじり距離をつめてきていた。
「ね、ひなちゃん、俺にし────」
「真矢、いい加減にして!」
私とまやくんの会話をしばらくの間、黙って見守ってくれていた道枝さんだけど、相変わらずのまやくんに痺れをきらしたみたい。
首根っこを勢いよく掴んで、ずるずると引きずって、私から離す。
「助かりました……」
ほっと息をつくと、道枝さんはにこっと微笑み返してくれる。