狼くん、ふれるなキケン!



ただ、会話がない分、少し離れたところで電話をとっている狼くんママの声がはっきり聞きとれた。




「あ、はい。ひとまず無事なんですね?」




電話の向こうの声はもちろん聞こえないけれど。




「しばらく安静に……、なるほど」




無事、だとか安静に、だとか。
聞こえてくる単語たちがちょっと不穏だ。


狼くんママの声が、少し上ずっているような気もして、だんだんと心配になってくる。

何かあったのかな……。




そわそわしていると、それから少しして、ガチャンと受話器を置く音が聞こえてきた。電話、終わったみたい。



ぱたぱたと足音を立てて、こちらへ戻ってきた狼くんママ。


食卓につくなり。




「狼、ひなちゃん、よく聞いて」

「……っ」




やっぱり何かあったのかな。

ごくん、と咀嚼中だったしょうが焼きを飲みこんで、次の言葉を待つ。





「パパがね────」





深刻そうな顔をして、狼くんママがそう切りだした。



パパって、狼くんパパのことだよね。たしか、単身赴任中の。



まさか、事故に遭ったとか……?
それとも病気で倒れたとか……。



一瞬のうちにぐるぐると悪いことを考えてしまって、狼くんとふたり、神妙な面持ちをしていると。



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