狼くん、ふれるなキケン!
『もう帰っちゃうの?』なんて、一瞬引き留めようと、指先が空中をさまよった。
そこで、我に返る。
そうだ……前提として、狼くんは私のこと嫌いなんだった!
話が終わったなら、はやく出ていきたいに決まってるよね。
それが、今の、狼くんと私の現実だ。
ガチャリ、と戸を開ける音。
その向こうへ消えていこうとする狼くんの背中に。
「……あ、あの」
「……」
「えと……おやすみ、なさい」
そう言うのが精いっぱい。
もちろん狼くんは、なにか返してくれることもなく、あっさりと自分の部屋へ帰っていってしまったけれど。
────そういえば。
小さい頃でさえ狼くんとお泊まりはしたことがなかったし、こうやって同じ家に住まわせてもらってからは寝る前に狼くんと顔を合わせることもなかったから。
“おやすみ” って狼くんに言ったの、はじめてかもしれない、なんてぼんやりとそんなことを考えた。