呉服屋王子と練り切り姫

私は彼の腕の中!?

 仲良しゲーン夫妻と共に夕闇に包まれた日本庭園を歩く。澄んだ秋の空気に流れる心地よい水のせせらぎ、時折聞こえる獅子脅しのカランという音が、ここが都会のど真ん中であることを忘れさせる。
 前を歩くゲーン夫妻は、手を握り合ってニコニコとほほ笑みながら、時折こちらを振り返る。

「ジンパチハ、モナカチャンにゾッコンネ!」
「モナカチャンハナサナイ! アイダネ、ボクラのワカイコロミタイダ!」

 片言の日本語を話しながら、甚八さんは足元のおぼつかない私の腰をぐっと抱き寄せ、何を思っているのか分からない笑みを浮かべる。
 違うんです、これは私が着慣れない着物に下駄という状況の中転ぶという粗相を犯さないように支えられているだけなのです! もう!
 何もかも、甚八さんの手の中で転がされている気分になる。そもそも、この人が私のことを「大切な人」だなんて意味深なこと言うからいけないんじゃない!
 私はきっと甚八さんを睨みつけた。彼はニコニコしたまま腰を折り曲げて私の顔を覗き、そのまま耳元で囁いた。

「ちゃんと前見て歩かないと本当に転ぶぞ、モナカ」

 より一層睨みを効かせたところで、ゲーン夫妻の声が聞こえた。

「アラー、フタリでナイショノハナシ?」
「イイネェ、ミミモトでササヤクアイ! ジョウネツテキ!」

 全然そういうのじゃないんだから! そう思いながらも、私の頬は熱を上げるのだった。
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