呉服屋王子と練り切り姫
 ーーーカシャ、カシャ。

 スマホのシャッター音で目が覚めた。

「モナカチャン、オキチャッタ!」

 カメラを私に向けていたのはゲーンさんの奥さんだった。

「ジンパチのヒザデネムル、カワイイジャパニーズプリンセス!」
「甚八の、膝? ……っ!」

 私ははっと顔を上げた。どうやら私は、甚八さんの膝枕で寝ていたらしい。

「ごめんなさい、私……」
「別にいい。朝早かったから、疲れが出たんだろ」

 そう言って甚八さんは私の耳元に顔を寄せた。

「よだれ垂らしてないから許す」

 彼を睨もうと思ったけれど、甚八さんは次の瞬間にはもう視線を窓の外に移していた。私はなんだか少し寂しくなった。前の席ではヒューヒューとはやし立てる奥さん。

「アラ、ジンパチ、イガイトテレヤサン!
 ジャパニーズアベック! カワイイネ!」

 そんな関係じゃないのに、私はなんだか恥ずかしくなって、反対側の窓の向こうの過ぎていく景色に目を移した。
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