呉服屋王子と練り切り姫

ムードもなにもありませんっ!

 あの後、変に彼を意識してしまった私は、布団の上に正座をして彼がお風呂から出てくるのを待っていた。

「私、やっぱり空いてる部屋で寝ます。本館に行けば空いてる部屋あるみたいだし……」
「怪しまれるだろ。お前はここで」
「いや、でも、あの……」

 外国の方も泊まることが多いからか、ベッドのような台に敷かれた布団2組はぴったりくっつき、離そうもんなら台から落ちてしまいそうだ。ええい、こうなったら……

「一緒に……寝ます?」

 私がそう言うと、甚八さんはふいっと背中を向けた。

「バカ言え。とにかく、お前はここで寝ろ」

 甚八さんはピシャリと襖を閉めた。それが私と甚八さんを隔ててしまったような気がして、私はとても寂しくなった。

 朝起きると、彼は居間で寝ていた。掛布団こそかけているものの、畳の上で、腕を枕にして、ごろんとそのまま寝ていた。すやすやという寝息が聞こえて、この人の寝顔を見るのは初めてだったなと、そうっと顔を覗き込んだ。
 丸メガネをしていないその目は、思ったよりもまつ毛が長い。なるほどメガネが似合うわけだ、通った鼻筋は日本人の中では高めだろう。少し開かれた口からすぅすぅと寝息がもれるたびにまつ毛がぴくぴく動いて、私はふふっと笑った。
 あんなに口は悪いのに、手先は器用なのに、寝顔は子供みたいにあどけないんだから。もう少しその寝顔を眺めていたくて、私はそうっと彼の頬に手を乗せた。
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