呉服屋王子と練り切り姫

呉服屋の跡取りお坊ちゃま

「甚八お兄様、大丈夫ですって!」
「ああ、それはよかった。じゃあ、頼むよ」

 長身の男性は、腰をかがめて暖簾をくぐり、店を出て行った。
 私は何とも言えないイライラを胸の奥にしまった。

「大きい顧客取れたしラッキー!」

 玲那は相変わらずこの調子だ。時々こうして玲那のお嬢様節には狂わされる。私は気になっていたことを玲那に問いかけた。

「ねえ、甚八お兄様て言ってたけど、彼なんでここに……?」
「ああ、愛果知らなかったよね? 甚八お兄様はね、ここの2階にはいってる、「加倉」の経営任されてるんだって。経営側の方だからこうして店舗に来ることはそんなにないんだろうけど……お兄様自らここに足を運ぶなんて、よほどの緊急事態だったのかしら? まぁ、私からしたらお兄様に会えたからラッキーだったわ。8歳のころからなぜあんなに変わらないのかしら……」
「8歳って……、え、彼28歳なの! 私達と2歳しか変わらないじゃん!」

 それでいてあの子供扱い……私はもう会うはずもない彼にイライラを募らせるのだった。
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