呉服屋王子と練り切り姫
「はは、俺かっこつけちゃった」
私を腕の中から解放した将太君は、照れ隠しなのか鼻の下を指でこすりながらそう言った。
「将太君、やっぱり私……」
「あ」
私が言いかけたその時、将太君が声を上げたので思わず振り返った。そこに居たのは、先ほどまで私の脳裏に張り付いていた人物だった。
「ヨダレ女には和菓子の兄ちゃんがよく似合う、な」
わざと嫌味ったらしく言ったのは、甚八さんだった。
「な……っ!」
言い返そうとした私に、彼は黙れと手を出した。
「今日はこれを渡しに来ただけだ」
甚八さんは懐から封筒を差し出した。
「これ……」
「報酬。約束しただろ、二日分の報酬だ。拘束して悪かった」
「でも……」
「でもじゃない。お前はきちんと勤めを果たしてくれた。だから、対価だ。受け取れ」
「私、最後までいなかったから……その……」
「いいんだ。無理させた俺が悪かった」
甚八さんは封筒を私に無理やり押し付けた。私は将太君の手前、それを受け取らざる得ない。すると、将太君は果敢にも彼に食いついた。
「なぁ、あんたさ。どこの偉い人か知らんけど、愛果さん悩ませるようなことしてんじゃねぇよ! あんたのせいで、愛果さんがどんだけ……」
「俺はもうお前に決して関わらない。それでいいだろう?」
宣戦布告かと思いきやあっさりと引いていった甚八さんに、将太君もぽかんと呆けてしまった。甚八さんはそのまま去っていった。
何よ、あんなやつ……そう思うのに、なぜか行かないで、と思ってしまった。
私を腕の中から解放した将太君は、照れ隠しなのか鼻の下を指でこすりながらそう言った。
「将太君、やっぱり私……」
「あ」
私が言いかけたその時、将太君が声を上げたので思わず振り返った。そこに居たのは、先ほどまで私の脳裏に張り付いていた人物だった。
「ヨダレ女には和菓子の兄ちゃんがよく似合う、な」
わざと嫌味ったらしく言ったのは、甚八さんだった。
「な……っ!」
言い返そうとした私に、彼は黙れと手を出した。
「今日はこれを渡しに来ただけだ」
甚八さんは懐から封筒を差し出した。
「これ……」
「報酬。約束しただろ、二日分の報酬だ。拘束して悪かった」
「でも……」
「でもじゃない。お前はきちんと勤めを果たしてくれた。だから、対価だ。受け取れ」
「私、最後までいなかったから……その……」
「いいんだ。無理させた俺が悪かった」
甚八さんは封筒を私に無理やり押し付けた。私は将太君の手前、それを受け取らざる得ない。すると、将太君は果敢にも彼に食いついた。
「なぁ、あんたさ。どこの偉い人か知らんけど、愛果さん悩ませるようなことしてんじゃねぇよ! あんたのせいで、愛果さんがどんだけ……」
「俺はもうお前に決して関わらない。それでいいだろう?」
宣戦布告かと思いきやあっさりと引いていった甚八さんに、将太君もぽかんと呆けてしまった。甚八さんはそのまま去っていった。
何よ、あんなやつ……そう思うのに、なぜか行かないで、と思ってしまった。