呉服屋王子と練り切り姫
「お前、笑ったな」
「だって……あの部屋は……ないですよ、ははっ」
「言っとくけどなぁ、あの部屋に人入れたのお前が初めてだんな」
「家政婦とか雇えばいいじゃないですか」
「無理だろ、あんな部屋。最初に来た家政婦に俺のメンツ丸つぶれだ……」
「ふふ、あははっ」
「とにかくだ、それ俺は受け取らないからな! 勝手に処分してくれ」
「いや、だからそういう訳には……あ!」
「なんだ?」
「じゃあ、これ頂いてしまうお礼に、甚八さんの家政婦になる、というのはどうでしょう?」

 言ってからしまった、と思った。何を言っているんだこの口は。まぁ、もちろん甚八さんがこんな提案に乗るわけ……

「それ、いいな。頼む。あれ、どうにかしなくてはならないと思っていたんだ」

 キョトンとした私に彼は懐からカードを取り出し、差し出した。

「これ俺の部屋の鍵。今日から早速頼むな」

 そう言って甚八さんはそそくさと商談ルームを出て行った。私は持ってきた紙袋を手に、ただ唖然とそこに立ち尽くした。
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