呉服屋王子と練り切り姫
 翌日、仕事から帰った私は急いでリビングの掃除にとりかかる。朝、時間がないながらも回した洗濯機のおかげで、衣類だけは少しましになった気がする。書類は、テーマごとにまとめて、本は……とりあえず、積み上げておけばいいか。

 そんなこんなで、時計の針は午後7時を回る。そろそろ夕飯にしようかな、と料理の準備を始める。昨日、甚八さんにひたすら見られて料理をしていたせいで、今日その目がないことが、なんとなく落ち着かない。もうすぐ料理が完成する頃になって、私は気付いた。

「あれ、甚八さん帰り遅いな……」

 夜9時を回っても甚八さんは帰ってこない。私は彼の分にラップをかけ、一人空しく夕飯に手を付けた。昨日はあんなに楽しく食事をしたのに。早く帰ってこないかな……いや、別に彼のことなんてどうでもいいじゃない! 私は彼の恋人でもなんでもない、ただの居候兼家政婦なんだから。

 結局その日は、甚八さんの姿を見ることはなく、私は勝手に寝支度を整えると自室で眠るのだった。
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