呉服屋王子と練り切り姫
美味しく食べてもらいたいだけなんです!
次の日、仕事が休みだった私はもう一生来ないと思っていた東丸宮商事の社長室に来ていた。
「キミから来てくれるなんて嬉しいよ、わが社の幸運の女神様」
そう言って懲りずにソファに腰掛ける私の前で跪き、私の手をとる陽臣さん。
「アナタに用事があったのではありません」
「女神はやっぱり手厳しいね。で、どうしたのかな?」
陽臣さんは私の隣に置かれた紙袋をちらっと見る。
「これ、まだ試作なんですけど……」
その紙袋を差し出した陽臣さんは怪訝そうに眉間にしわを寄せる。
「僕を毒見係にしにきたってこと? 女神様はなかなか粋なことを考えるね」
「違います、伊万里様にです」
「は?」
「低糖で練り切り餡を作ってもらえないか、うちの職人に頼んだんです」
「伊万里様に? これは……」
陽臣さんは差し出した紙袋をさっとテーブルに乗せると、空いた私の手を両手で掴みガシガシと上下に揺らした。
「ありがとうありがとうありがとう! ああ、幸運の女神様!」
陽臣さんはそのまま胸ポケットからスマホを取り出してどこかへ連絡をする。すぐに電話を切ると私に言った。
「ねえ、それ作った職人さん、連れてこれない? 伊万里様の意見、職人さんも聞きたいんじゃないかな?」
「ちょっと連絡してみますね」
それで、今日の午後この東丸宮商事の社長室で、伊万里様が試食なさることになった。でもまさか、それが修羅場と化するなんて、私は知る由もなかった。
「キミから来てくれるなんて嬉しいよ、わが社の幸運の女神様」
そう言って懲りずにソファに腰掛ける私の前で跪き、私の手をとる陽臣さん。
「アナタに用事があったのではありません」
「女神はやっぱり手厳しいね。で、どうしたのかな?」
陽臣さんは私の隣に置かれた紙袋をちらっと見る。
「これ、まだ試作なんですけど……」
その紙袋を差し出した陽臣さんは怪訝そうに眉間にしわを寄せる。
「僕を毒見係にしにきたってこと? 女神様はなかなか粋なことを考えるね」
「違います、伊万里様にです」
「は?」
「低糖で練り切り餡を作ってもらえないか、うちの職人に頼んだんです」
「伊万里様に? これは……」
陽臣さんは差し出した紙袋をさっとテーブルに乗せると、空いた私の手を両手で掴みガシガシと上下に揺らした。
「ありがとうありがとうありがとう! ああ、幸運の女神様!」
陽臣さんはそのまま胸ポケットからスマホを取り出してどこかへ連絡をする。すぐに電話を切ると私に言った。
「ねえ、それ作った職人さん、連れてこれない? 伊万里様の意見、職人さんも聞きたいんじゃないかな?」
「ちょっと連絡してみますね」
それで、今日の午後この東丸宮商事の社長室で、伊万里様が試食なさることになった。でもまさか、それが修羅場と化するなんて、私は知る由もなかった。