呉服屋王子と練り切り姫
 夕日が山の影に沈んでいくのを、黙ったままの甚八さんと眺めていた。

「燃えてるみたいだな」

 ポツリと呟いた甚八さんは、とても切ない表情を浮かべる。

「燃えてるっていうよりは、輝いてるように見えます。また明日を連れてくるよって、夢を持った少年みたいに」

 なぜそんなことを思ったのかは分からない。甚八さんはははっと笑った。

「なぁ、」
「なんでしょう?」
「もし俺が、お前の明日を奪ったら、お前はあの太陽を恨むか?」
「へ?」
「俺は、幼いころに母親を奪われた。だから、夕焼けが燃えるような色をしているとき、きっとそれは俺の怒りで太陽を燃やしているんだって、そう思ってた」

 甚八さんは窓の枠に頬杖をつくと、そのまま視線を窓の外に流す。着物の袖から覗いた腕は、筋肉が逞しいのに妙に幼く見えた。

「でも、あれは俺に明日を連れてきてくれていたんだな。今、なぜだか腑に落ちた」

 甚八さんは目線だけこちらに振り向くと、優しい笑みを浮かべる。それは、憂いや寂しさなんてどこにも含んでいない。

「言い方を間違った」

 甚八さんは体ごとこちらに向き直ると、私の目を見て言った。

「明日を、お前と生きたい。永遠にだ」
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