呉服屋王子と練り切り姫
 甚八さんは、袖のなかに手を入れると、すっと箱を差し出した。開かれた先には、キラキラ輝くダイヤのリング。言葉に詰まっていると、甚八さんはもごもごと口を動かした。

「き、気に入らなかったからって、返されても困るんだ。前に言ったろ、だから俺は……」
「そうじゃなくて……」

 私はふふっと笑った。

「こんなにゴージャスでラグジュアリーでブルジョアジーなプロポーズを受けているっていうのに、なんか甚八さんが甚八さんすぎて拍子抜けしちゃって!」
「バカにしてるのか? 確かに、俺は正装といえば和装をしてしまうし、ヘリコプターでプロポーズってのは俺の意見ではないが……」

 私が大笑いをすると、甚八さんはふいっと顔をそらせてしまう。その照れた顔が可愛くて、私は衝動的に彼の頬に口づけた。

「もう、居候でも家政婦でもなく、甚八さんの傍にいていいんですね」
「お前、そんなことを思っていたのか。俺の中では、とっくに特別な存在で……」

 甚八さんははっとするとまたごにょごにょと口ごもる。私は笑いながら甚八さんの顔を覗く。

「私も、ずっと前から甚八さんのこと、特別な存在でした」

 へへっと照れ笑いすると、甚八さんが呟く。

「あのさ、そのー、例え、特別な存在になったとしてもだ……部屋の掃除、してくれるか?」

 私は頷いた。

「じゃあ、明日からは一緒に掃除しましょう。料理も、一緒にしましょう。だって、これから永遠に、一緒にいるのでしょう?」

 私がそういうと、甚八さんの顔が急に近づいてきた。

「ああ、永遠に一緒にいよう……愛果、愛している」

 その声を合図に、私の唇がふさがれる。私は、幸せな気持ちで彼に唇を預けた。私たちの足元では、まるで祝福するようにキラキラと街の明かりが輝いていた。
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