嫌わないでよ青谷くん!
青谷くんは意外と優しい(かもしれない)
着飾らない自分とは何であろう。直子は物心ついた時から人と話すのが得意だと自負していた。それは自分の武装が完璧だという自信からだ。けれどそれを生まれて初めてウザいと言われた。それも、強い悪意を持って。
夜に染まった街、キャンドルの火の揺らぎのみが明るく包む部屋の中、布団に潜って直子はラインの画面を開いていた。それも、あんなに関わりたくなかった青谷のルームである。
教室での言葉が気になって仕方がなかったのだ。どうしても意味を問いたくてグループラインから招待したは良いが、直後に恥ずかしさと不安が襲い、悶えていたところ、彼からの承認メッセージが届いたのだ。驚きのあまり固まること数分。喜びと戸惑いが数時間。お風呂と歯磨きを挟んでいよいよ寝る時間というところで、ようやく話しかける気が湧いて今に至る。
しかしこんな時間に送るのは迷惑かもしれない。直子は常識のある人間だ。わずかばかり逡巡し、諦めてルームを閉じる。携帯を枕元に置いてすべての感情から逃れるように硬く目を瞑る。
その時だった。軽快な音を立てて携帯が震えたのは。
期待と落胆が交互に襲ってくる。震える指先で画面を開くと、通知センターに青谷英の文字が上がっていた。心臓が大きく鼓動する。指がもたついて仕方がない。結果、何分か費やしてやっとのことでルームを開いた。
『まさか山崎さんから招待されるとは思わなかった』
たったそれだけの言葉。けれど、青谷から送られてきたということが信じられなくて、直子は戸惑う。
『馬鹿な私が好きっていうのが気になって』
思い悩むのも馬鹿馬鹿しく、正直に伝えた。既読はすぐにつき、二分ぐらい経ってから、新しい文字が浮き上がってくる。
『ごめん、深い意味はない』
衝撃を受けた。あんなに悩まされていたというのに青谷からしてみればその程度の言葉だったのだ。そう思うとだんだん自分が恥ずかしくなって、いっそう深く布団に潜り込んだ。
『でも』
ややあって、また文字が紡がれる。
『素の山崎さんともっと話したいとは思った』
まさかの言葉になんて返せばいいのか分からない。あれほど悪口を正面切って言っていた青谷に言われたところで、未だ苦しみから抜け出せていない直子にしてみれば困惑以外の何物でもない。