嫌わないでよ青谷くん!
青谷くん大嫌い問題
嫌い。その定義とは何であろう。好きの対義語。つまりは……。そこでいつも直子の思考はどん詰まりになる。
青谷に嫌い宣言をされたからといって、直子の価値が下がるわけではなかった。オリエンテーションの時に一軍になるであろう相手を見極め、それっぽい人に放課後話に行く。そこまで行けばあとは直子の能力でどうとでもなるのだ。
そんな感じで、順調な滑り出しで始まった一年生生活ももう一ヶ月が経ち、校内を自由に回ることにも抵抗がなくなってきた。今だって仲間の一人の提案で購買に焼きそばパンを買いに出向いているところだ。昼休みということもあって人通りの多い廊下を、人を裂くように歩いている直子達は誰がどう見てもカースト上位の連中で、さながら院長回診である。
直子の右隣で歩いている女がふと肩に手を掛けてきた。蜂蜜色の髪を肩まで緩くカールさせ、手を覆うほどビックサイズのセーターを着ているその女は蜂屋芽衣といって、この集団でファッションリーダー的なポジションに位置付けられている。
「直子さぁ、青谷くんに嫌われてるって本当ぉ?」
直子の耳に艶やかな唇を寄せてそう言った。突然思いもしなかった方向から話題が投げられ、直子は当惑する。
「え、なんで芽衣それ知ってんの」
「麗奈に聞いたんだぁ」
麗奈。わずかに逡巡して、ああ、と合点がいく。直子の左隣に座る女子だ。あの距離ならば直子と青谷の会話が聞こえていたって不自然ではない。
思い出したくもない黒歴史が掘り返されて、直子はばつが悪い顔をする。
「青谷ねぇ……なんかあいつはよく分からん」
「直子がそう言うって珍しいねぇ」
「何々、お前らオレ抜きでなんの話してんの?」
芽衣が肩を置いているさらに奥からひょっこり身体を出してきたのは、鈴木類だった。
耳元に光るピアス。それを誇張する為に耳元で切り取った黒髪はワックスで遊ばせている。体より一回り大きいシャツをズボンから出し、ズボンも規定より短く折り曲げて美しい形をした脚のラインがしっかり出るように履いている。
「なんの話でしょーねー」
「え、青谷の話やろ?」
黒く縁取られた眼鏡の奥で、ぱちくりと濡れ羽色の瞳が動く。