QUALIA ー最強総長×家出少女ー
夜になった。慧さん目当てで、たくさんのお客さんが集まる。

「ありがとうございました」

慧さんがお辞儀をする。割れんばかりの拍手。

今日の慧さんは過去一で絶好調だった。

「続いては、月子さんです」

麗於さんがアナウンスする。その途端、観客の一部からがっかりするような声が上がる。

「またあの子? 前に気絶した」
「嫌ね。慧様に弾いてもらいたいのに」
「天音が聴きたいわね。天才が作った曲を慧様が弾くからいいのよ。なのにあの子じゃ笑」

最前列のおばさんが嫌みをいう。

落ち着け。今はピアノにだけ集中しよう。

ピアノに向かう私は、慧さんとすれ違う。

「なぜまたピアノを?」
「自分でも、分かりません…」

はっきりとした理由は説明できなかった。

それどころか死の旋律を、乗り越えられる自信もない。

「だけど今は、ただ弾きたいんです。そしてもう逃げたくない。それだけです」
< 154 / 304 >

この作品をシェア

pagetop