QUALIA ー最強総長×家出少女ー
裏切り
☆☆☆

「お兄ちゃんが琴葉の幸せを一番分かってるんだぞ。だから琴葉はお兄ちゃんの言うことに従っていればいいんだ…」

お兄ちゃんはにっこりと笑いながら、私のほほを指でなでる。

建物の外には、警察が数百人集合し、空にはヘリコプターが飛んでいる。

今夜開かれるのは、世界の国賓が集まる晩餐会だ。

日本の政治家や各国の要人、貴族や、裏社会の組長までもが、今日の晩餐会に参加している。

私は日本代表のピアニストとして、政治家に招待されていた。

もうしばらくしたら、彼らの見守るステージでピアノを弾かなければならない。

テレビカメラも、控え室に来るまでに5台は見た。

この日のために生放送まで組まれているらしい。

「だから琴葉、もう一度ゆっくり言ってごらん…」

今にも吐きそうなくらい体調が悪い。

中学生のくせに化粧までされ、服はレースで肩が透けた、大人っぽすぎる蒼いドレスだ。

「さっき琴葉はピアノを“弾きたい”って、言ったんだろ?」

お兄ちゃん……美月陽翔(みつきはると)は私のほほを両手で包む。

部屋には私達の他に五人の執事がいる。みんな子供の頃からよく知っている。

私は震えながら、口を開く。

「“弾きたくない”って、言ったんだよ。今日も、そしてもう二度と…」

その瞬間、お兄ちゃんの顔つきが豹変した。
< 18 / 304 >

この作品をシェア

pagetop