QUALIA ー最強総長×家出少女ー
そのとき、ドンドンと、扉を叩く音がした。
「ちっ……誰だよ?」
控え室にテレビカメラを持った大勢の人が入ってくる。
「すいません、私達テレビ局の記者なのですが、琴葉様を演奏の前に取材させていただきたくて」
お兄ちゃんは小さく舌打ちする。
「いいですよ! どうぞ中へ」
お兄ちゃんはニコニコと答えた。さっきまでの冷酷な顔が嘘のようだ。
「ありがとうございます!」
「うわっ! 琴葉ちゃん! 本物だ!!」
「テレビで見るより可愛いっ!!」
「おい、カメラ撮っとけ!!」
若いAD達が私を囲う。そして一斉にしゃべる。
「琴葉ちゃん、一年ぶりのステージだけど、お気持ちは?」
「記憶の音はまだ聴こえるの?」
「琴葉ちゃん独自の作曲方法について教えてほしいんだけど」
私はさっき泣いた跡が映らないように、顔を反らす。
「ごめんなさい。化粧を直したいの。少しお手洗いに」
私が言うと、女のADが率先して道を開けてくれた。
「ありがとう。またあとで」
私は部屋を出た。けどこのときには、もう二度と帰らないと、心に決めていた。