雨と猫
 大切な友達が死んだ。 

 あいつは、気が向くと僕に擦り寄ってきて、なのに、こちらが構って欲しい時はどこかに行ってしまう。

 そんな気分屋なあいつは、僕の目の前で動かなくなってしまった。ただの、塊になってしまった。

 雨が降っている。

 初めての死の経験は、呆気なかった。こんなもんかと、薄情な自分もいて、そんな風に思う自分が嫌になった。

 だけどやっぱり、あいつの横たわる姿を見つめていると、もう僕のところに帰ってこないということが嫌でも伝わってくる。

 その身体に、触る勇気が無かった。 
 
 触ったら最後、目の前にある死というものを受け入れるしかないと思ったからだ。

 しかしその死は、時間を経ることに現実味を増していき、脳内は考えることを止めて、自然に耳に入ってくる降る雨の音で埋め尽くされる。

 それしか、聞こえなくなった。いや、その音だけに集中したかった。


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