雨と猫
 どうしようかと、彼女を見つめる。話しかけてもいいものなのか、分からない。

 いや、そもそも無視して歩けばいいだけなのだが。

 だけど、なんだか無性に気になってぼーっと彼女の方を向いて立ちすくんでいると、僕に気付いたのか近くに寄ってきた。当たり前だけど、彼女はずぶ濡れだ。

「あなた、雨の雫見たことある?」
「雨の雫?」
「うん。下からね。こんな風に」

 彼女はまた、顔を空に向けた。その顔は笑っていた。

「無い」
「ふうん、それならやってみなよ」
「いや……」
「なんで? そんな顔して、何かあったんでしょ? 雨はなんでも流してくれるよ。心の中のもやもやを」
 
 彼女は心の中を読むことができるのだろうか。エスパーなのだろうか。

 いや、違う。

 今の僕の顔はきっと、自分でも見たことのないほどの悲嘆に暮れた表情をしてしまっているのだろう。やはり、あいつの死は、呆気なくても僕の心にはずっしりと重りを乗せて来た。

 本当に、この雨はこの感情を流してくれるんだろうか。雨に打たれたら、あいつが死んだことも無くなったことにならないだろうか。

 雨を見ながらそんなことを思いつつも、やはりそれに打たれる勇気はない。そんな僕を見て彼女は言葉を投げかけてきた。

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