雨と猫
「意気地なし」

 今の僕に、ぴったりの言葉。

「そんなんじゃ」

 本当のことを言われると、無性に否定したくなる。

「じゃあ、ほら、傘置いて」

 あまりにもしつこいものだから、それを畳まずに地面に置いた。傘に、水が溜まっていく。

 雨で全身が濡らされていくのが、嫌でも分かる。冷たい。あいつのように、雨は冷たい。

 彼女を見ると、指で上を差していた。

 思い切って、空を見た。顔全体を空に向けた。水が目に入ってくる。鼻の穴にも入ってくる。

「なんか、あったんでしょ?」

 同じことを聞いてくる彼女に、目を向けた。髪を伝って水が下へ下へと落ちていく。

「まあ、ね」
「話したら、すっきりするかもよ?」

 話したところで、きっとすっきりなんてするわけない。それほど、あいつの死は僕に多大なる悲しみをもたらした。

 あのふわふわの毛が、高い鳴き声が、時々指を噛んできたその感覚が走馬灯のように思い出される。もう、その全てを感じることができない。

 幼い頃からそばにいたあいつは、僕よりも大分早くこの世を去ってしまったんだ。そんな当たり前のこと分かっていたはずなのに、現実はやはり厳しい。

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