響は謙太郎を唆す
8 行動する
11時ごろ謙太郎が家に帰ったら、母親が馬鹿みたいに明るく、くったくなく、まるで園児に対するみたいに扱ってきた。
そのくせ恐ろしく強情で決めつけて、本当の謙太郎を拒絶していた。
謙太郎を見ているんじゃない。
自慢の息子を勝手に作り上げる。
それでも愛情をかけてくれる自分の母親だ。
いつまでも子供じゃない、1人の意思のある人として今の自分を見て欲しかった。
謙太郎は、また、何度も何度も説明している事を一から話した。
違う学部に行かせてくれないか、と。
母親は2パターンの答えがあって、いつも大抵1のパターン、
〈聞かなかった事にして、まるで何事もないように振る舞う〉
だが、今日は珍しい方の2のパターン、
〈聞き分けのない幼児にやさしく叱る〉
だった。
「いい加減にしなさい。お兄ちゃん!」
冷静に母の態度を見ながら、こうやってどちらかの答えをされる事がなんとなく日常化し、挨拶みたいになっていき、決心が鈍感になって行くのも、もしかして見越しているんだろうかと考えた。