響は謙太郎を唆す
謙太郎は、そこはあまり考えていなかった。
あまりにも当然に『全部お兄ちゃんのもの』とされすぎていて、それを聞かされ続けた兄弟の気持ちも、全くの0からスタートを切る自分もやはり分かっていなかったのかもしれない。
「甘いんじゃないか、ナイトぼっちゃん」
とレンに言われた言葉を、ささるように思い出した。
「ああ」
自分の決心した事はそう言う事だ。
親に勘当される。
この家や病院の経営に口を出したり権利を振りかざしたりしない。
都合よく頼ったり、要求したりしない。
一文なしでスタートする。
怖くて、震えるような、心が冷たくなるような、でも踏み出したんだ。
響だけでなく弟までも巻き込んで、後戻り出来ない道に。
「俺は絶対に言わない。逆に、お前、それを受け入れる将来で、いいの?」