響は謙太郎を唆す

「ぼくはずっと羨ましかった。だから、お兄ちゃんが医者が嫌だと聞いて、それでも後を継いだら、悔しくて我慢出来ないと思ってた。ぼくは、医者になる。最初からずっと、医者になりたかったのに!」

うん、と謙太郎は頷いた。

弟は、もしかしたら、謙太郎より真剣に、長年、悩んでいたのかもしれなかった。

同じ兄弟なのに、謙太郎だけに引かれたレールを、自分の方がもっともっと強く本気で欲しいのに、理不尽にも医者になりたいとも思った事のない兄の前にある道を、悔しく見ていたのだと思ったら、両親の盲目さや子育ての仕方、甘やかされてた自分がはっきりと見えた。

丸裸になっていく。
自分の力で勝負する。
決意を一歩一歩進んで、響の手を取る自分になる。
< 135 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop