響は謙太郎を唆す
9月、新学期。
始業式。
講堂で、高校の全校生徒で整列して校長先生の話などを聞いた。
謙太郎はクラスの列に並んでいる時、何度か響と目が合った。
真面目な表情が少し緩んで、ふふっと笑う。少し赤くなってちょっと恥ずかしそうになる。
何人も生徒がいる中で、1人だけが特別な女。
謙太郎は2人で会って見つめ合っている時と少し違う、皆の中にいる響を、不思議な気持ちと俺のものだという奥底から出てくる強い感情に驚く。
大勢の生徒達の中で、響も、謙太郎だけを意識しているんだと目が合うたびに確かめるような気になり、合わないと不安や焦りや物足りなさに傷つく。
かなり自分でもヤバいと思いながら、謙太郎が教室に戻ったら、なぜか響だけ戻ってこない。
そのまま担任が終礼を終えた。