響は謙太郎を唆す

先生の声を聞きながら、響はぼーっとしてきた。

始業式の後、呼び出された。

今日から停学だと言われ、しかも、登校日に制服のまま繁華街をうろつき、男子と夜中に歩いていた、という内容だ。

謙太郎の事は言わない、と、言い訳せずに怒られていたところだった。

いきなり戸口に来た謙太郎はまっすぐ響を見て、安心するようにちょっと笑った。
じわり。
(私は幸せだ)と思った。
彼は駆けつけてきてくれた。
包むみたいに笑ってまっすぐ見てくれた。
謙太郎だ。
謙太郎は他人なのに、でも誰よりも一番近い人、家族より近い他人。
付き合ってる人。好きな人。

こんな状況なのにじわじわ不謹慎な幸せな気分でいたら、真横に謙太郎が座った。
担任も後ろから部屋に入った。
謙太郎は、教頭に、

「何の指導ですか?」

と聞いた。教頭は、

「いやいや、内藤君、ちょっと生活指導ですよ。彼女は停学です」

と、説明した。
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