響は謙太郎を唆す

「それで停学なら、俺もだな」

何でもないように謙太郎が言った。
それから、教頭を正面から見て低い声で聞いた。

「で?誰が見てたの?」

教頭は、明らかにあわてて、

「電話の通報ですよ。塾の帰りに見たそうで、制服でしたからな、善意の通報ですよ」

「そんな電話、いつも信じんの?何で戸波さんだと分かったの?そんなら、俺だって分かるんじゃねーの?理由も聞かずに一方的に停学にするもんなんですか?」

教頭は、チラッと担任を見た。

「いや、担任もそうだとおっしゃったもんでね」

担任は身じろぎした。
謙太郎は、後ろを振り返って、担任を見上げ、

「俺の⋯⋯ 母親?」

と、静かに聞いた。
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